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「いや、うーん」
ここで玉彦の勘違いに乗ってしまうのも癪に障るけれど、そうするしかない。
「時間をあければ盛り上がるかなって」
「まったく馬鹿なことを考える。暫くは裏門は通るな。もう少しだけ二人だけの時間を楽しみたい」
「え、でも……」
玉彦は私との間に子供をってまだ考えていないんだ……。
そりゃあ、ちょっとまだ早いかなとは思うけど。
「比和子。ここではそう在る様に、そうなる様になっている。深くは考えるな。とりあえず今は……」
膝に乗ったままの私の後ろ髪を撫でながら、玉彦は久しぶりに心からの安堵の表情をみせた。
二月から今まで、ずっと私に意味も解らずに避けられ、でも祝言は挙げるという訳の分からない状況で、ようやく本来のあるべき二人に戻れたと感じたのかもしれない。
そういう私も疑心暗鬼の二か月で、かなり心が消耗してしまった。
まるっきり自分のせいだけど!
「玉彦……。いつもいつもごめん……」
「構わぬ。前にも言った。比和子はそのままであれば良い。振り回されるのもまた一興。なにか誤解があろうとも、有り余る時間の中で解いてゆけば良い」
玉彦に大人な余裕を見せられて、私だけ成長していないと実感する。
もう二十二にもなるのに。
「だからな、比和子。とりあえず今は、大人しくやらせろ」
現実の世界で帯に手を掛ける玉彦は遠慮が無く、私はいつも通りに組み敷かれ、抵抗虚しく独身最後の夜は更けていった。
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