玉彦の愛する誰か

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 表門に到着して走って着替え部屋へと移動すれば、汗だくの白無垢を脱ぎ捨て、用意されているものを再び着付けて色打掛を羽織る。  黒市松の鳳凰柄を見て、私はちょっと派手すぎるのではないかと思ったけれど、お母さんはこれくらいのものの方がいいと譲らなかった。  でもさ。  お母さんはそう言うけどさ。  私は正武家に訪れた呉服屋さんのご主人にその値段を聞いて、本気で目が飛び出しそうになった。  一度しか着ないものに、車が新車で買えちゃう位の値段っておかしいと思う。  だからレンタルでいいんじゃないの? って隣にいた玉彦に言えば、呉服屋さんのご主人の君島さんにうちはレンタルないですよ、と苦笑された。  そして澄彦さんも玉彦も、コイツ何を言ってんだと言わんばかりの視線を私に投げかけたのだった。  でもさ。  私だけでもそういうものでお金が掛かって、結納があって、祝言に掛かる費用は全部正武家持ちって正直いくら使ってんのって。  招待客の交通費や宿泊費とか、玉彦の紋付き袴等々だって決して安くはない。  正武家の出納帳を握る松梅コンビにそれとなく聞いてみたけれど、奥方はそういうことを気にすることはないとにべもなかった。  澄彦さんは惚稀人願可の儀が私の突拍子もないタイミングで行ったものだから、お披露目も何もない地味だったことを根に持っていて、祝言は絶対に豪華絢爛にすると譲らなかった。  なので玉彦と私は、澄彦さんに祝言の全部を丸投げしたのだった。  例えどんなことになっても文句は言わないと約束をして。  お蔭様で何とか澄彦さんの仕切りで祝言は無事に終わり、夕方になると私の家族以外の人たちは次々とお屋敷を後にして行った。  最後に、冴島月子さんが裏門を出て、松梅コンビがその門扉をゆっくりと閉めたのだった。
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