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夜になり、一段落した私は一旦母屋の部屋へと戻り、寝間着に着替えてから澄彦さん側の母屋へと向かった。
玉彦はまだそちらで今夜泊まることになっている私の両親との酒宴を続けている。
披露宴の席から玉彦は注がれるままずっとお酒を呑み続けていて、なのに全く酔わないのが不思議だった。
澄彦さんがいつも晩酌をする縁側を覗くと、そこには澄彦さんとお父さん、玉彦が胡坐を掻いて楽しそうにしていた。
お母さんとヒカルは先に休んでしまったようだ。
「お父さん」
声を掛けて私はTシャツにハーフパンツ姿になっていたお父さんの背中に飛びついた。
小さい頃からお父さんがお酒を呑んでいるこの背中に抱き付くのが好きだった。
お父さんの背中は、なぜか私を安心させてくれるのだ。
「なんだ、比和。いきなり」
「久しぶりだったから、つい」
私は背中から離れて、お父さんと玉彦の間に正座する。
ぴとっと寄り添って深呼吸するとお父さんの煙草の匂いがした。
「お父さんの匂いがする」
「そりゃ澄彦の匂いだったら困るだろ」
「えー、僕も中々良い匂いだよ」
「やめろ。おれの娘に触るな。玉彦君、比和子を澄彦から遠くへ」
「はい」
玉彦は私を一番端に座り直させ、澄彦さんから一番遠くになった。
彼はまだ披露宴の時の格好のまま生成りの色紋付袴のままだ。
澄彦さんはちゃっかりもういつもの着流しに着替えている。
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