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玉彦が卒業する年の二月。
私は預かっていた彼らの一軒家の鍵を使って中に入り、引越しの為の段ボール箱をせっせと組み立てていた。
男三人で暮らしている割には整理整頓されたリビングに空の段ボール箱を積み重ねていく。
そして二階に上がって、玉彦に頼まれていた本棚にあるものを箱に詰めて行く。
その中に私は見てはいけないものを発見してしまった。
そして今、暖房も点けずに冷え切った部屋で氷の様に固まっていた。
変だな、と思わないこともなかった。
でも大学生の生活は私には未知で、そういうものだと思っていた。
毎週必ず帰って来ていた玉彦が、二年前から月に一度だけ帰らない様になっていた。
卒業が近くて忙しいのだろうと思っていた。
信じてた。
絶対玉彦に限ってそんなことはないって。
なのに……。
私は大切そうに本棚の奥に隠されていた桜色の箱の蓋を閉じて、元に戻した。
その箱はパンドラの箱だった。
中に希望も残されていないパンドラの箱。
箱の中には、数十にも及ぶ桜色の封筒のお手紙が詰まっていた。
差し出し人は全部同じ人。
冴島月子。
女の人だった。
すごく字が綺麗で、ほんのりと封筒からいい香りがして。
きっと本人も、そんな人なんだろうなって思えた。
私は止せばいいのに、そのお手紙を罪悪感を持ちながらも読んでしまった。
自分のスケジュール帳と照らし合わせて読み進め、鈴白村で馬鹿みたいに待っていた私のところへ帰らなかった日、玉彦はその人との逢瀬を重ねていたのだった。
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