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「だから私と玉彦が長期休暇を願えば良き父親で当主の澄彦さんは快く叶えてくれます。では澄彦さん。私と玉彦が長期休暇を下さいと言ったら、澄彦さんは何というでしょうか? 諾でしょうか? 否でしょうか?」
「……」
「澄彦さん」
詰め寄った私に澄彦さんは目を閉じて権謀術数を張り巡らせる。
諾に賭ければ、澄彦さんは長期休暇を叶えなくてはならない。
そして否に賭け、私の質問に否と答えれば賭けには勝つ。
けれど稀人の面々を前にしてそんな卑怯なことをすると当主としての面目が丸潰れだ。
ケツの穴が小っちゃいと思われる。
「……息子よ。お前の嫁はとんでもないぞ」
「……承知しています」
澄彦さんは腕組みをして空を仰いだ。
「そうだよなぁ。新婚旅行だって行かせてやれてないもんなぁ……。でもなぁ……」
「月子さんに旅行のお土産はお饅頭が良いと言われました」
「……諾に賭けます」
「じゃあ私は否で!」
万歳をした私に、石段の面々が拍手をした。
「策士澄彦破れたり!」
「狡い、比和子ちゃん。男の矜持に関わることを賭けるなんて。しかも駄目押しに月子とか」
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