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どうやってその一軒家を出たのか、覚えていない。
車のエンジンを掛けて、ハンドルに額を押し付けた。
「うぐっ……」
全く可愛くない嗚咽に、あの冴島月子という人は玉彦に別れを告げられてもこんな泣き方なんてしないだろうと思った。
コンコン。といつまでも泣いていると車の窓を帰宅した須藤くんが叩いた。
すっかり遊び人風になってしまった須藤くんは、私の顔を見てぎょっとしてドアに手を掛ける。
私はすかさずロックして、発進させた。
左右を確認して右折すると、向こうから玉彦と豹馬くん、そしてその後ろに数人の友人たちが歩いている。
引越しの準備の為に手伝ってくれる友人が来るとは聞いていた。
私が車でその横を通り過ぎると、玉彦と目が一瞬だけ合った。
でも私はすぐに逸らして前だけ向いた。
玉彦の後ろを歩く小町級の別嬪さんが、彼の後ろに流れるマフラーを可愛らしく掴んでいた。
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