玉彦の愛する誰か

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 知らないフリをして三月。  鈴白村に玉彦と稀人二人が帰って来た。  私と玉彦はそれまでは別々の部屋だったけれど、彼の希望もあり広い和室へと移動。  本当は奥の間という妻の私室を設けるはずだった。  でも、どうせ入り浸るいう玉彦の宣言で、それは廃止された。  稀人の二人は、空いていた部屋を自由に選んでそこに自分たちの荷物を運び入れる。  こうして正武家のお屋敷は賑やかになった。  けれど反対に私の気分はもう底なしに沈んでいた。  玉彦と顔を合わせる度に、目を合わせたくない。  触れられると身を引いてしまう。  彼のその手が、私ではない人に触れて抱いていたと思うと、どうしてもダメだった。  あれほど待ちわびていた玉彦と共に在る日々が始まったというのに。  もう正武家のお役目がある時以外は、ずっと一緒にいられると期待に胸を膨らませていたのに。  このまま胸に蟠りを抱えたまま、私は玉彦の花嫁になるのか。  そんなことを考えては、溜息をつく。  周りは私がマリッジブルーなんだろうと笑っていたが、冗談じゃない。  でも今はそう誤解をさせていた方が楽だった。
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