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石橋は言葉を失った。目の前の机に置かれている携帯電話は傷だらけで裏蓋が外れていてバッテリーが無くなっていた。だが石橋が拾ったときには異常など何もない普通の携帯電話だったのだ。
「一応預かっておくよ、型番と製造ナンバーで持ち主はわかるだろう」
「 ……おっ、お願いします」
震える声で頭を下げると石橋はバイクに跨って帰っていった。
帰り道、携帯電話を拾った交差点へと差し掛かると信号機の柱に看板が出ていた。○月○日、此処で轢き逃げ事故がありましたと書いてある看板だ。
看板の下には花束が三つほど置いてあった。
「マジかよ…… 」
通り過ぎようとした時、携帯電話の着信音が聞こえてきた。
見るとはなしに音に惹かれるように視線が向いた。反対車線、一段高くなっている歩道の下に携帯電話が落ちていた。
『許してあげる…… 』
頭の中にくぐもった女の声が蘇る。
石橋さんは無視してバイクを走らせた。三度目に拾ったらどうなるのか? 四度目か五度目もあるのか、いずれにしても気味の悪いものに関わり合いになるのは御免である。
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