第一話 携帯電話

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 困った落とし主が無くした電話を見つけようとして自分の番号に掛けてきたのだと思い石橋さんは拾った電話に出た。 「もしもし? 電話を拾った者ですけど…… 」  出来るだけ親切そうな声を作って電話に出るとくぐもった声が聞こえてきた。 『一度目だから許してあげる』  聞取り難い声だが女だ。石橋は話を進めようと続ける。 「もしもし、携帯電話を拾ったんですけど、どうしましょう? 何処かであって渡しましょうか? 」 『一度目だから許してあげる。一度目だから許してあげる。一度目だから許してあげる』  電話の向こうで女が同じ言葉を繰り返す。 「気持ち悪いなぁ…… 」  石橋さんは通話を切ると落ちていた場所へ電話を捨てようとして手を止めた。  自分が電話に出たことは着信記録に残っているだろう、後で揉め事でもあると厄介なので面倒だが警察に届ける事にした。  新聞配達をするルートに交番がある。お巡りさんが居れば渡せばいいし居なければ携帯電話を無言で置いてくればいいと考えた。  交番へ行くと丁度見回りから帰ってきたらしきお巡りさんが居たので事情を話して携帯電話を渡した。名前と連絡先を紙に書いて直ぐに終った。新聞配達中を考慮して手早く終らせてくれたのだろう。  それから1週間ほどして石橋さんはまた携帯電話を拾った。     
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