第一話 携帯電話

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 拾った場所はこの前と同じ交差点だが反対車線である。  朝刊の配達を終えて帰る途中、信号で止まると歩道に設えてある花壇の中から音が聞こえて何事かと近付くと携帯電話が鳴っていた。  落とし主が困って掛けてきたのだろうと石橋さんが電話に出るとくぐもった女の声が聞こえてきた。 『二度目だから許してあげる』  石橋さんはギョッとして耳から離すと携帯電話を見つめた。この前拾った物ではないかと思ったが今手にしているのはストレートタイプだ。以前拾った折畳み式とは全く違う。 『二度目だから許してあげる。二度目だから許してあげる』  確認しようと耳に当てるとくぐもった女の声が聞こえてきた。 「おいっ! 悪戯は止めろよ!! 」  石橋さんは辺りを見回した。誰かが悪戯でもしているのだと思ったのだ。だが辺りを見ても誰も居ない、道路沿いに建つ家々も静まり返っている。 『二度目だから許してあげる。二度目だから許してあげる。二度目だから許してあげる』  繰り返し聞こえてくる声に総毛立ちながら通話を切るとバイクをターンさせて交番へと向かった。     
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