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第一話 丸太
林業に携わっている柴田さんに聞いた話しだ。
6年前の初夏、台風が通り過ぎて大雨の降った翌日だ。柴田さんは山を三つ越えた親戚の家へ行くために山の中を通る国道を軽トラで走っていた。
台風が直撃して大雨と暴風が吹き荒れたのだ。山の斜面を切り開いたような国道の彼方此方に泥や岩が転がっている。とはいっても土砂や岩が落ちているのは道の端だけだ。
何度も通っている道なので柴田さんは慣れた様子で車を走らせる。
曲がりくねった峠に差し掛かると柴田さんはスピードを落とした。年に数度事故が起きている場所だ。山肌の見える急な斜面と反対側は崖のようになっている。まさに山を切って作ったという様子の道だ。
慎重に運転をしていて5度目のカーブに差し掛かる。
「危な! 」
柴田さんは急ブレーキを掛けて軽トラを止めた。
カーブの向こう、泥と岩と木が道路を塞いでいた。大きな土砂崩れで砂山が出来てアスファルトが見えない、対向車線を含めて完全に通行止めだ。
「参ったなぁ…… 」
急な用事で親戚の家にはどうしても今日中に行かなくてはならない。
「あの道を使うか」
暫く思案していた柴田が車をUターンさせる。
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