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僕が彼女の部屋に来たとき、彼女は何故かいなかった。
ただ、雨だから窓は閉まっているし、扉が開いた音はしなかったから、この部屋のどこかにいることはわかっている。
そして何故か、彼女はあそこにいるという確信があった。
理由はないし、あの時に会ったばかりだから、理解もない。
それでも、確信はあった。
彼女は、自分がどれほど傷つこうと、彼女の持つ髪だけは気にかけるだろうと。
それで、大体の場所は絞り込めた。
まず、ベッド。
最初に彼女を寝かせた場所だ。
見たところ、ここにはいない。
けれど、まだ暖かいから、少なくとも起きたのはついさっきだろう。
次に、クローゼットだが、ここは除外していいだろう。
所々に隙間が開いているから、慌てて入れば髪が絡まってしまう。
それに、こういう場所に彼女は入らない気がする。
何というか、人を意識するような場所は。
と、なると最後に残ったのはクローゼットの隣にある、何も入れていない、使っていない物置のような場所しかない。
けれど、
『…………』
その声を聞いたとき、開けるのをやめた。
自分が、見てはいけないと思ったから。
だから、伝えることを紙に書いて、そっと部屋の扉を閉めた。
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