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“転生”、という言葉がある。
元は仏教用語であり、本来それは“苦しみ”である。
“生きる”という苦しみ。
四苦。八苦。
天道。人間道。修羅道。餓鬼道。畜生道。地獄道。
六道の最上位である天道でさえ、死ぬときに五つの苦しみがある。
この世は苦しみに満ちており、だからこそ、悟りを開いて解脱することを目指す。
それが、本来の転生である。
しかし、今は全く違うものになっている。
“転生”は苦しみでなく希望に。
“前世”は業でなく知識となった。
あまりにも、明るい。
あまりにも、無垢。
あまりにも、自分勝手。
私の記憶は、恐らくそういうものなんだろう。
だけど、役に立たない。
私の前世は、私自身であるし、そんなものなんだろうけれども、それがなんだというのだろう。
確かに私は、そんな一般的に思われている“転生”をしている。
けれど、
私にとって、“転生”は希望ではなく苦しみで、
私にとって、“前世”は知識ではなく業でしかない。
ああ、やっぱり、私は………………、
“人間”が嫌いだ。
例えこれから先、何度転生しても、私に待つのは決して希望じゃない。
私に、待つのは――
ーーそんなことを、雨に濡れて、動かない身体で考えていた。
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