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………昔の、夢を見た。
とても、幸福な夢だった。
これ以上なく、幸せだった。
「…………」
わたしがその人に出会ったのは、雨が降りしきる寒い秋の日のことだった。
親のいないみなしごのわたしは、傘をさすこともできず、ただ雨に打たれて、濡れていた。
寒さに震えて、耐えるためにうずくまっていた。
右と左で色の違うわたしの眼は、誰の目にも奇異に見えて、
ただ、気持ち悪くて、
うずくまって、がたがた震えて。
けれど、みなしごのわたしを助けようとする人間なんていなかった。
そう、いなかった。
……はずだった。
「君、大丈夫?」
その人は、わたしにそう聞いてきた。
傘をわたしの頭の上に広げて、手を出してきた。
わたしはこれがどういう意味かも知らずに、その手を握った。
その手はわたしより大きくて、わたしの手はその人の手に隠されてしまった。
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