17.コンチェルト

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若くして不治の病に冒された元カレと、 一途に自分のことを想ってくれて 転職までしたと言うもう1人の元カレ。 2人の間で揺れたものの、 結局選んだのは病気の方の元カレで。 周囲の反対を押し切って結婚し、 程なくして彼は天国へと旅立った。 …簡潔にまとめると、 ただそれだけの内容だ。 考えてみれば人は誰しも 必ず死ぬように出来ているのだから、 決して私達だけが特殊なのでは無い。 むしろ、ありふれた話だと思う。 だからありふれた話にならないよう、 必死で私はエピソードを付け加えるのだ。 芳がしてくれた数々のことを。 私の為に身を引き、 私に向けられた悪意を排除し、 私が幸せになるよう見守り続け。 そして間近に迫っていた死を受け止め、 必死で恐怖と折り合いながら 毎日笑っていた彼のことを。 …不思議と涙は出なかった。 絶対に忘れないという気持ちと、 前を向いて生きなければという 真逆な思いが哀しみを中和したのだろう。 残念なことに、 記憶の中の芳は少し不鮮明で。 考えてみれば、彼が姿を消してから もう3年もの月日が経つのだ。 その声も匂いも、どこか朧げで 自分の薄情さに思わず笑ってしまう。 あんなに好きだった人を こうして徐々に忘れてしまうだなんて。
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