17.コンチェルト

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どうしてこの人は、 迷わずに私を選んでくれるのだろうか? 嬉しかった。 物凄く嬉しかったはずなのに、 ただただ黙り込む。 罪悪感が私から言葉を奪うのだ。 芳を忘れてしまうことに対しての罪悪感。 そして光正の人生を狂わせている罪悪感。 「ほら、そういう顔をすると思った」 「うっ、な、何よ…」 全て見透かしているかのように、 光正は目元をクシャクシャにして笑う。 「俺の為に離れようとか考えてるだろ?」 「でも、だって、私…」 どうしてそんな余裕たっぷりなのか。 この会話を長く続ける為か、 光正はワザとゆっくり歩く。 「何が幸せかなんて、 本人じゃないと分からないだろ? 出世してガンガン稼いで 1人ぼっちで生きるよりも、 そこそこの地位でも仕事を頑張って 好きな女とその娘の傍にいたい。 …俺の幸せはそうなんだ。 だから、離れようとか思わないでくれ」 チクチクと胸が痛み、 再び罪悪感が湧き出てくる。 こんなに想われているというのに、 この人の与えてくれる半分も 私は返すことが出来ないのだ。 「ごめん、光正、私…」 「ほら、またそんな顔をする。 言っただろ?傍にいるだけで幸せだって。 いいんだよ、このままで」
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