17.コンチェルト

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少し先を歩いていた唯が 集団登校の合流地点に辿り着き、 私と別れを告げる為に手を振っている。 石原さんはそこで立ち止まり、 光正と私を待ってくれているようだ。 「おかーさん、行って来まーす!」 「行ってらっしゃい。気を付けてね」 その後ろ姿を眺めながら、 光正は尚も続けた。 「雅が井崎君を簡単に忘れるワケが無い。 …だから俺は待つよ。 長期戦の覚悟は出来ているんだ。 もしかして死ぬまでこの状態かも しれないけどね。 それも仕方ないかなあと思ってる。 いいかい、雅。 人間の価値観なんてそれぞれ違うんだ。 だから自分の尺度で他人を測らないこと。 勝手に俺の感情を決めつけないで、 知りたい時は何でも訊いてくれ。 俺はいつでも嘘を吐かないから」 …心の奥を温かい何かが流れた気がする。 この人の気持ちに応えたら、 どれほど心が軽くなるのだろうか。 「光正…、私…」 「焦ることは無いよ。 言っただろう?俺はこのままでも幸せだ」 キュッと胸を掴まれた気がする。 それは本当に遠い昔に一度だけ感じた、 とても懐かしい感触だった。
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