第1話 様式美をなぞる

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「家に帰りゃよかったじゃん。大学から近いだろ?」 「まぁねー。でも家帰ったってヒマだしさ。だからさっきまで、ここでボンヤリしてた」 今座ってるベンチはキャンパス内でも高台の場所にある。 街の方を向いて座ると、遠くまで見通せて気持ちが良い。 だからここは、暇潰しに最適な人気スポットだったりする。 「つうかミノルさん? それがお前の昼飯なのかい?」 「うるせぇなカップ麺中毒。人の食にケチつけんなよ」 「お、おう。別に今始まったことじゃねぇけどさ、味噌一色ってすげぇな」 「これは昨日専門店で買ってきたばかりの、珍しいものヤツだ。これから初めて食うんだ。邪魔すんなよ」 「はいはい。静かにしてますよーっと」 さて、赤味噌さん。 君はどんな味がするのかな? 塩ッ気は、風味は、なめらかさはどうかな? 今それを確かめてやるぜぇーー! ーーポロリ。 オニギリがまるで逃亡でもするかのように、オレの手から溢れた。 ついつい余計な力が入ってしまったのか。 それはポンッと目線の高さまで跳ねて、無情にも地面へ。 急斜面の下り坂へと落下した。 「アァーーッ! オニギリが逃げて行くぅーー!?」 「おいミノル! 危ねぇよ!」 「待てやコラァーー!」 オレは制止の声を振りきって、全速力で後を追った。     
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