第1話 様式美をなぞる

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かなり離れた位置をオニギリが転げ落ちていく。 まるで自走してるかのように加速しながら。 「くそ! こんな事になるなら三角オニギリにしときゃ良かった!」 悔やんでも時すでに遅し。 完璧な球体の塊はグングン速度を増して転がっていく。 オレは見失わないように追いかけるだけで精一杯だ。 そしてオニギリは段差に乗り上げ、天高く跳ねる。 宙を泳ぐ味噌付き白米。 それを黙って見過ごす訳がない。 「逃がすかぁあーーッ!」 オレも合わせて空を跳んだ。 精一杯に手を希望へと向けて伸ばす。 指先から標的までの距離は1メートル……50センチ……10センチ。 そして……。 「よっしゃあ! 捕まえた!」 無事に標的確保。 右手には確かな感触が宿る。 だが喜んだのも束の間で、脇の方から凄まじい爆音が迫ってきた。 顔を向ける暇すら無い、まさに一瞬だった。 ーードガァアン! そこでオレの意識は途絶えた。 結論から言うと即死だった。 大型トラックに思いっきり轢(ひ)かれてしまったようだ。 坂道でジャンプしたときに車道へ飛び出していたんだが、全く気付かないとかバカすぎる。 魂とやらが天に昇る瞬間に見下ろした事故現場が、余りにもグロテスクで印象的だった。 しばらくは焼き肉を食えそうにない、食う機会があるかは知らんが。     
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