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「ありがとうございますう。センカワ刑事ぃ」車を降りながら探が言う。
「ところで、なぜ止めなかったのです?」
「……なんの事だ」と仙川は即答する。
「あっは! とぼける気ですかあ。警察官であるあなたが、一般人を守るよりも優先させるべき事があった……とかあ?」
にたあ、と笑う探に仙川は「……さあな」と言うだけだった。
「あっはあ。まぁいいでしょう」
「……話は済んだか? なら俺は帰るぞ」
「はあ? なに寝ぼけた事を言ってるんですかねえ、センカワ刑事ぃ」
「……どういう意味だ?」
なるべく苛立ちを抑えながら尋ねる。
「あなたはワタヌキさんの監視役なんですよお? なので、くれぐれもワタヌキさんから目を離さないように、とのご命令ですよねえ」
「……常に一緒にいろと?」
「あっは! まぁそう言うことですねえ」
「ふふ、部屋なら空いてありますからね」と四月一日。
「ムツミ警視総監のお話、覚えていますかあ?」
(……確か四月一日を捜査に協力させる条件として“殺人を犯さない”、“嘘の供述をしない”、“今まで犯した犯罪の自供または証拠の提出をすること”……だったか)
「……ああ。だがなぜ俺が適任なんだ?」
「そ・れ・はあ。あなたが部下を亡くして暇そうだったからですう。ではまた後ほど」
そう言って探は庁舎へと入っていった。
(……暇そう、か。確かに……入江が死んでから随分と退屈だな……)
「仙川さん?」
「……なんだ」
「いえ、なんでもありません。
それより、お荷物などはご自宅に取りに戻らなくても?」
「……座席の後ろにキャリーケースがあるだろう。それにたいていは入っている」と車を動かしながら答える。目的地は「四月一日家」だ。
「ふふ、いつも用意しているんですか?」
「……ああ、張り込み用とかに……な」
それだけ言って仙川は運転に集中した。四月一日も何かを察したのかそれ以上は何も言わなかった。
(……“天達区女性連続殺傷事件”――。まだ疑問は残るが「解決した」と言えるのか…?
それよりもあの“探偵”……まさか、俺の事を嗅ぎ回っているのか? だとしたら、早めに手を打っておくべきだな……)
仙川は胸の内に晴れない感情を抱えながら四月一日家を目指すのだった。