異常者と廃ビル男女行方不明事件

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「…………っ。……何だこの匂いは……」  仙川は眉をしかめながら言う。  リビングには、ニンニクとバター、脂を混ぜ込んだような、何とも言えない強烈な匂いが漂っていた。 「おー! カズ以外の奴と飯食うの久しぶりだなー! ん? そう言えばおっさん今日泊まんの?」 「……ああ」 (気づくのが遅いな……。なんと言うか、子供と話しているようだ……)  なんて事を考えながらテーブルにガンケースを置く。火賀は席につきテーブルの上のカップ麺の蓋を開ける。 「いっただっきまーす! ………………………………………まず」  四月一日に言われた事など忘れたかのように麺をすする火賀だが、案の定、眉をしかめたまま固まった表情を浮かべた。 「……すまんがこれを置いてくる。匂いが移ったらたまらんからな」と仙川はガンケースを持ち、リビングを後にする。  和室に入ろうとしたタイミングで、向かいの風呂場の扉が開き、四月一日が頭を拭きながら顔を出した。  ゾクッと背筋が凍ったのが分かった。 「……四月一日、か?」 そこには、いつもの柔らかい表情など微塵も浮かべておらず、まるで別人のような、暗く不気味で、“躊躇なく人を殺す”目をしていた。  仙川は直感する。  四月一日に銃口を向けた時、犯人は来ると言った時――。これが四月一日の“異常犯罪者”である本性なのだろう、と。 「……ふふ。仙川さん、お風呂空きましたよ。必要なら沸かし直しますが」 そう言う四月一日の表情は、いつもの微笑みを浮かべていた。 「……いや、シャワーだけでいい」 「そうですか。シャンプーとリンスは適当に使ってください」  Tシャツを着ながら四月一日が言う。別人のような柔らかな物腰と微笑み。いつもの表情だ。 「……四月一日」 「はい。何ですか?」 「………その傷はどうした」  左の脇腹の辺りにある刺されたような大きな傷跡を指差しながら仙川は言った。 「ああ。これですか……」少し間をあけ、 「これはちょっと……刺されまして」と言った。 「……誰にだ?」 「それは言えません。 あと――火賀には言わないでくださいね」 “本性”の表情で釘を刺す。“本当に殺す”と目が言っていた。 「ふふ。ではごゆっくり」 四月一日はリビングへと歩いて行った。  仙川は警戒心で眉をひそめながら、四月一日の後ろ姿を見つめていた。 *** 「――はぁ……」 シャワーを浴びながら深いため息をついた。 (……四月一日。火賀。黒河。そして“探偵”……か)  仙川は鏡に映る自分の顔を見つめた。  疲れきった顔。もう「おじさん」の歳か、とあごひげを触りながら再びため息をつく。 (……今のところ厄介なのは探偵か……。俺の事を嗅ぎ回っている様子だったからな。まぁ、しばらくは泳がしておいても問題ないだろう。正面から関与してくるなら、“狩り”の獲物にしてやろう) 「……“警察こそが絶対の正義”だ。忘れるな。警察官である俺こそが……」  高鳴る心臓を落ち着かせる為に、仙川は無意識に呟いていた。
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