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勇者アクタム
「倒すべきは魔王ワードゥル。 勇者アクタムよ、世界に再び光を」
玉座の間で国王からその言葉を聞き、私は顔を上げた。 そして、手袋を外し見せたのは手の甲に描かれた黒い三日月形の紋章。
「それこそが勇者の証。 そして、永遠の命の証であり、不死の呪いでもある」
──月の涙と言われるそれは、魔王がこの世に現れると共に出現する証。 人々はそれを授かった者を勇者と呼び、国を上げて勇者を称えた。
「では、すぐにでも旅立ち魔王ワードゥルを倒して参ります」
口から出た言葉は真実であり偽りでもあった。 私は魔王の存在で世界が闇に包まれる事を望んではいない。 しかし、なぜ私が選ばれその悪の権化を倒さなければならないのかという疑問も生じていた。
国王に頭を下げ振り返ると、私を救世主として見つめる者達が剣を掲げ送り出す。
魔王ワードゥルを倒せば終わる地位に疑問を感じつつ私は城を後にし、魔物の住まう外壁の外へと出た。
青い空、白い雲、深緑の山々を見渡し、1つの溜め息が出る。 それにともない笑いも溢れた。
「魔王に関する情報無し、行き当たりばったりでは世界は広すぎる……。 さて、どうしたものか」
頭には鋼鉄の兜、体には鋼鉄の鎧、背には鋼鉄の盾と聖剣。 重装備ではあるが私には窮屈過ぎてもうすでに息が上がってしまった。
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