ソーダ味の味

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ソーダ味の味

蝉の鳴き声がうるさい。 網戸越しに風と共に入ってくるその音は、暑さも相まって俺をいらいらさせた。その音に混じって聞こえてくる風鈴の音と、外気より幾分か涼しい風だけが救いだ。 溶けたソーダ味のアイスバーの雫が机に落ちそうになるのを舌で捕まえる。目の前に広げた夏休みの宿題に垂らすわけにはいかなかったのだ。 ワークを広げたはいいものの、正直言ってこんな暑さの中やる気は湧かなかった。 風があっても体中から次々と噴き出してくる汗をタオルで拭い、どれから片付けようか考える。少しの間宿題を眺めてから、とりあえず数学のワークを1ページだけやってみようと思い立つ。 こんな暑さと音の中で宿題なんてやりたくなかったが、得意な数学なら少しは進むだろう。 そう考えている間にもアイスは青い雫を垂らすし、汗は全身から噴き出す。それを処理すると、数学のワークを開いてシャーペンを握る。手汗で感触が気持ち悪い。 いい加減アイスバーを舐めるのに飽きてきた俺は、しゃりしゃりと音を立てて咀嚼する。確かにソーダ味がするが、ソーダの味ではない。 普段からなんとなく食べてきたのに、今日、初めて意識した。ソーダの味というよりは、ソーダ味という味なんではないだろうか。ソーダよりも酸味が少なく、全体的に甘い。しかし、ソーダの爽やかさは失われていない。 不思議な味だな、と思った。今までたくさん食べてきたはずなのに。 毎日日記に書くことがほとんど無いから、今日の日記にはこれを書こうと思った。そこまで考えて、「ソーダ味」のアイスバーに気をとられて、ワークは少しも進んでいないことに気が付いた。別に切羽詰っているわけではないのだが、去年のように最終日に徹夜してまで終わらせるのは御免だ。 食べ終わったアイスの棒をゴミ箱に投げて、ワークの上に描かれた式を見る。なんだ、案外解けそうだ。 そのまま数学のワークを解いたり少し息抜きにゲームをしたりして、ふと我に返ると、蝉の鳴き声が止んでいた。さっきまではあんなにうるさかったはずなのに。 ふと時計を見ると、もう夕方らしかった。通りでさっきから少し暗いわけだ。 しかし、蝉があんなにうるさかったのに急に止まってしまうと、まだ夏休み序盤なのに夏が過ぎてしまったような物悲しさを感じてしまう。 これも日記に書くことにして数学のワークを閉じた。
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