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一章
俺の名前は、天満大介。二十三歳。ただの中学校教師だ。
俺が中学校教師になったのにはあまり理由は無い。
無理やり理由をつけるとすれば二つ。
一つ目は、子供が好きだから。
二つ目は、地元にたくさんの中学校があったから。
しかし、
「おーい。大介くんっ!次の授業ないの?」
このやたらと話し掛けてくる少女を俺は知っている。
この少女のことは、十四年前──すなわち、俺が九歳の頃から知っている。
少女の名前は吉沢美玲。中学二年生。小さい頃から家が近所で、よく遊んでいた。と言っても、九歳の年齢差があるため、途中からはあまり遊んでいないのだが。俺がこの中学校に来たときに迷わずに俺が天満大介だと当てることが出来る程の仲ではある。
しかし今は教師と生徒の仲。あまり親密な関係になってはいけない。
「俺も次の授業の準備をするから、吉沢も教室に戻れよー。
あと、天満先生だろ?先生をつけろよ。」
「はーい。大介先生っ!」
「なっ!?やれやれ。もうそれでいいよ。」
何度訂正しても分からないこの少女と会話していると、授業開始のチャイムが鳴った。
目の前の少女は慌ただしく教室に戻ろうとする。
「やば。急がないと遅刻扱いになる~。じゃあね!大介先生!」
吉沢の軽やかな足取りを見ながらぼーっとしていると後ろから声がした。
「おいおい大介。早くしないと生徒たちがうるさいぞ。」
そうアドバイスみたいな事を言ってくるこの教師。
須川大貴。
彼とは、高校時代からの友人で運良く同じ中学校に就職出来た。
「ああ。すぐにいくよ。」
俺は軽く返事をして、次の授業の準備をするために職員室に向かう。
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「天満先生おはよー。」
「うん。おはよう。」
今の時刻は八時頃。生徒の登校してくる人数が一番多い時間帯だ。
しかし俺もその時間帯に学校に向かうため、生徒からこうやってあいさつされるのは珍しくない。
「はぁ、またうるさい奴の相手をしなければならないのか。」
そんな独り言をつぶやきながら、頭に浮かんだのは吉沢の顔。
しかし、その日、学校に吉沢は来なかった。
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