ローラの休日

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並木道のなかを一人の迷える少女が歩いている。名前はローラという。  ローラは自分の顔が嫌いだ。特に鼻である。他人からみれば言われなければ全く気づかないと言うが、毎日鏡を見ている本人は、ほんのわずかではあるが、左に歪んでいるように見えるのである。  この鼻のおかげで男性とろくにしゃべった事もない。当然男女交際など遠い夢である。  そんなローラなので一生一人で生きていくと決めている。まだ17歳なのに、近くのパン屋で働く毎日だ。  パン屋で働くといっても当然パンを焼くわけではない。カウンターに入って接客をする。しかしこの顔が気になって、いつもうつむき加減である。  鼻が憎けりゃ目も憎いで、一つ一つあげていったらきりがない。いろんな試行錯誤の末、今は黒ぶちの大きなだて眼鏡をかけている。これで少しは人見知りも落ち着いた。  そのうち、好きなものにも変化が現れはじめた。昔はピンクが好きな色だったのに、今では洋服選びも無意識のうちに深緑色のシャツを買ったりしている。とにかく自分の中にある女性性を排除したいとまで思うようになってしまったのだ。  化粧も試してみた。しかしやり方が全く分からない。鼻筋をまっすぐにしたつもりだったが、先輩のトールスに思い切り笑われてしまった。 「お前のは化粧じゃなくて顔隠しって言うんだよ。久々のヒットだ。腹いてーガハハ」  この少し意地悪な男は年は同い年だがもうパン作りの為に厨房に入っている。男というだけで待遇に差がある。ローラはそれが不公平だと思っている。自分もパン作りを覚えたい。ゆくゆくは自分の店を持ちたいからだ。  時々、知らない男に声を掛けられる。眼鏡を掛けていても本来のローラの美しさを見抜く男はいるのだ。もともとは可愛い顔をしているのだ。  声を掛けられると反射的に小走りして、逃げてしまう。そんな男達から逃げるのももう慣れてしまった。
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