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──傷心病院。
それはある日ある時突然僕の目の前に現れた精神科、この病院には僕しか通院する者はいない。否、そもそも人々はこの病院の存在自体が認識できないのかもしれない。
それぐらい不可解な、不思議な病院である。
僕、新城良立暮は初春の華麗なダイブを決めて以来この病院に通院している。
今日も特に異常の見られない体を引きずりながら、僕は自宅警備員には重過ぎる自宅の玄関のドアを開けて、慣れない陽の光に肌を焼かれながらもえっちらおっちら通院する。
都会の街を数百メートル、散歩気分で歩いていて何となく何かを感じたら、そこにあるのが傷心病院だ。
病院は小さいアパート位の大きさで、車一台しか駐車できない小さな駐車場に白塗りの高級車が止めてある。
「お邪魔します」
僕は傷心病院のガラスでできたドアを開けて挨拶する。
院内を見渡すと薄暗く誰もいなかった。今日は休みなのだろうか?
「こんにちは。今日もやっていますよ」
誰もいなかったはずのカウンターの明かりがついて看護師──もとい受付のお姉さんが笑顔で僕の訪れを迎えてくれた。と思う。
看護師のお姉さんは桃色で塗装されているハートのお面を被っていて、表情は疎か顔さえ分からない。
初春に初めて彼女を見たときはその姿にかなり驚いたが、もうすっかり慣れてしまった。
「良立暮さん、ですね。吸引の準備をするのでしばらく待合室でお待ち下さい」
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