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僕は花音舞ちゃんを直視できなかった。これは成長期の少女の胸を直視できなかった訳ではなく、花音舞ちゃんの胸には林檎ほどの大きさの“穴”が二つも空いていたからだ。
“穴”が空いているとは言っても出血がある訳ではなく、花音舞ちゃんの態度を見る限り生死に関して一刻を争うという状態でもないようだ。
自宅警備員という身分なだけあって、そもそも女性を目にする機会が乏しい僕は、少女の裸と少女の胸に空くグロテスクな大穴を目にして善悪や恐怖心に混乱する。
一方、羞恥心、焦燥、恐怖心で泣き目になっている花音舞ちゃんに対して医院長は微動だにせず、花音舞ちゃんの胸に空いた“穴”を凝視しながら言った。
「ほほぅ、そういうことか。わかった。今度は私と握手をしてみてくれないかい? 」
花音舞ちゃんは素直に手を出し、医院長と握手を──できなかった。
握手は失敗した、花音舞ちゃんには実体が無かったのだ。
花音舞ちゃんの泣き目は一瞬にして感情を失った。
「私は……オバケになっちゃったんですか? 」
「違うね」
医院長は震えている花音舞ちゃんからの質問を即否定した。
少し間をあけた後、微笑を浮かべる医院長は花音舞ちゃんの胸に空いた“穴”に指を差しながら花音舞ちゃんに対して質問を投げかける。
「──花音舞さん、何か胸に穴が空いたことに関して心当たりはないかい?なんでもいい、例えば最近誰かを呪ったとか」
花音舞ちゃんは震える体を懸命に抑えながら口を開いた。
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