01.夢の始まり

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01.夢の始まり

 白い世界に、彼女は今にも溶けてしまいそうだった。  シオンが声をかけると、彼女は「まあ」と声をあげる。透き通る白髪がゆらゆらと漂った。 「ごめんなさい。起こしてしまったかしら?」  言われてみれば。ベッドで目を閉ざした記憶を最後に、自分はこの虚ろな空間に佇んでいる。自身と少女以外、周囲には何も見当たらず、奥行きすら不確かな白い地平線がどこまでも続く。  白い少女は瞳をじっくりと細めた。白い肌や髪もさることながら、その瞳は磨かれた宝石のように輝いていた。そんな瞳に、シオンはいくらか見覚えがある。 「私ったら、懐かしくなって、はしゃいでしまったのね」 「……何か、嬉しいことが?」  シオンは問いかける。見知らぬ少女は両の手を合わせ、何度も頷いた。 「ええ。そうなの。私、あなたにお礼を言わなきゃいけないわ」 「私……?」  自分が何をしてやったと言うのだろう。シオンは自分を指す。  少女は両腕を広げる。ドレスが舞い上がるように、純白の髪が大きく波打つ。 「私、こんなに幸せ者では、またバチが当たってしまうわね」  彼女は無邪気に笑う。何がそこまで彼女を喜ばせているのかは定かではない。細い両腕を広げ、くるくると回り出す少女。シオンが腕を伸ばすと、細い指先がそっと彼女の指をすくった。 
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