01.夢の始まり

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 彼は温かい2枚のトーストにバターを添え、白い皿をまた一枚、彼女の前へと置いた。普段も十分な朝食を館の主から提供されているシオンだが、今日はそれ以上に豪勢な食事になっている。居候の身でありながら、少しばかり気が引けた。  溶けたバターがトーストの上を滑っていく。促されるままに豆の煮込みから口に運び、シオンはゆっくりと咀嚼した。香草の匂いが口内に広がっていく。 「美味しいです……」 「そう、それは良かった」  給仕係がいない朝食は久しい気がした。室内には食器の音だけが木霊する。  向かいに腰を下ろしたスフェノスは、シオンの食事をただ眺めている。会話も無く、彼が席を立つ気配も無い。だいぶ慣れたものだが、やはり落ち着かない。  シオンはフォークを止めて、彼に声をかけた。 「おかわりかい?」 「あ、いえ……。とても美味しいので、戴きたいのも山々なんですけど……」  席を立とうとするスフェノスを引き留め、シオンは視線を泳がす。 「さっき、食事を取る必要はないけど、真似事ならできるって……」 「ああ。僕たち傾玉は元々ただの石だけど、この身体は魔力で人間を模倣している。摂取したものを魔力に変換する術も持っているから、全く意味がないとは、言い切れないかな」 「じゃあ、スフェノスが嫌じゃなければ……いっしょにご飯とか、食べられるんですか?」 「僕が君と一緒に食事を?」  目を瞬くスフェノスにシオンは頷く。     
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