01.夢の始まり

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「何と言うか……たぶん、なんですけど……。記憶が無くなる前の私はきっと、誰かと一緒にご飯を食べることが多かったんだと、思うんです……。1人でご飯を食べるより、アーネスと話しながら一緒に食べる方が、とても楽しいし……。だから、私が1人で食べる時は、スフェノスも一緒に食べてくれるなら、嬉しいなって……」  何より、無言で食事を眺められていると言うのは、どうにも落ち着かない。シオンはスフェノスを見た。  彼は悩ましそうに目を伏せている。 「僕ら傾玉はあくまで人の真似事しかできないよ。味や飾りつけも、ただ知識として蓄えているだけで、食事自体に楽しさを見出すことはできない」 「そうですか……」 「でも、僕としては……その……とても、君の言葉に甘えたいと思ってしまって……」 「…………」  葛藤している。頭を抱えだしたスフェノスを見て、なんだか悪いことをしてしまった気がした。  トーストをかじり、シオンは彼が答えを出すのを待っていた。食事が終わると、彼は皿を片付けながらブツブツと独り言をつぶやいている。  時計を横目で確認しつつ、シオンは急いで着替えを終わらせた。近頃は着替えも1人でできるようになり、生活はだいぶ楽になりつつある。  廊下に出ると、そこにはスフェノスが頭を抱えてうずくまっていた。
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