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「何か良いことでもあったのかい?」
なんとか約束の時間までに準備を整えたシオンは足早に廊下を進む。いつものようにスフェノスから貰った首飾りを服の下に隠していると、彼はおもむろにそんな問いをかける。
シオンは思わず両手で頬を押さえた。
「私、変な顔していました?」
「とても素敵な笑顔だ」
金糸の髪を揺らし、見目麗しく微笑んだ。窓から入る日差しに長身の影が伸びる。
2人が階段を降りると、女給が静かに頭を下げて道を開ける。シオンも慌てて軽く頭を下げた。
「いや……その……今日は珍しく良い夢を、みれた気がしていて……」
「そう。それは良かった。吉兆だといいね」
スフェノスが目を伏せると、瞳は長いまつ毛に隠れんばかりだ。
「夢は大切なモノだ。良いも悪いも、君の一部だから」
扉の脇に控えていた使用人が扉を開いた。日の光に少しばかり目が眩む。青空の下、石畳の階段を下りると、小柄な少女がシオンを待っていた。緑の外套が風に遊ばれて揺れている。
「やあ。シオン。よく眠れたかい?」
「おはよう、アーネス。今朝はごめんなさい。ジェドネフさんも、おはようございます」
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