劈く声赤らむ君に清水あり

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 晴れた空、青々と繁る南国を感じる木々に囲まれ、山登りをしている僕の周りには、色鮮やかな美しい蝶と一人の女の子しかいない。  「今日は晴れて良かったね」  僕の隣を歩いていた彼女は笑顔でそう言った。  「あーそうだね、でもちょっと暑いかな」  本当はそこまで暑くはなかったのだが、赤くなっているであろう自分をごまかすために僕はそう言った。  僕たちは高校の修学旅行で沖縄に来ている。  沖縄は気温が高くとも湿度が低いため、夏特有のじめじめ感がなくそこまで暑さは感じない。  「そんなに暑いかな?山のなかで全部木陰だし、私は涼しいくらいだけど」    「まあ、そうだね」  やはり彼女との会話は緊張してしまう。僕は上手く話せているのだろうか。  やはり、仲の良い女子同士で行動した方が良かったと思われていないだろうか。  なぜ、修学旅行なのに二人だけで行動しているのかというと、まあ早い話僕が誘った。  本来なら4、5人のグループで行動するのだが、僕も彼女もグループのメンバーが運動部ばかりだったので、体力のない者同士でゆっくり歩こうと誘った。  もっと男らしく、堂々と誘うことができれば良かったのだが、周り に冷やかされて彼女が嫌がるかもしれないと思うとそうはいかなかった。  「もうみんなは頂上に着いたかな?」  「あ、うん。どうだろう」  急に話しかけられ、驚いてしまった。  話を聞いていなかったと思われはしないだろうか。  「でも、今日は誘ってもらえて良かった」  「え?」  「だって私、絶対みんなの足引っ張っちゃうもん」  ああ、そういう意味か。  一瞬、彼女も僕と同じ気持ちだったのかと思ってしまい恥ずかしくなった。  「ねえ大丈夫、顔赤いよ?」  「う、運動してるからかな?」  勘違いしたことを気付かれたのかと思うと、余計に恥ずかしくなって体温が上がるのを感じる。  「本当に大丈夫?私の水筒のお茶、まだ冷たいから飲む?」  「いや、いいよ。自分のがあるし」  そんなことをしたら間接キスになってしまう。  これ以上僕の体温を上げないで欲しいと思ったが、それと同時に間接キスを気にしないほどに、僕は意識されていないのかと不安になった。  上がりきっていたはずの体温が急激に下がっていくのを感じる。
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