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「あの、水筒借りたら、その…」
いつの間にか二人とも足を止め、向かい合って立っていた。
まっすぐに見つめてくる彼女の目に、思わず目をそらしながら、しかし少しでも意識してほしくて勇気をもって言う。
「間接キスに、なっちゃう…から」
急激に下がっていった体温が再び上がり、顔が熱い。
二人の間に沈黙が続いた。
熱い体温と静かな空気に耐えられず、彼女の顔を盗み見る。
彼女は顔を真っ赤にして目を泳がせている。
これは、どういう反応なのだろう。
「あえっと、変なこといってごめ」
「そ、そうだよね。間接キスなんて…」
どんどん声が小さくなり、後半はほとんど聞こえなかった。
「あ、あそこ」
何かを見つけたようで、さ迷っていた彼女の目が前方の一点に止まり、はしゃいだような声をあげた。
「湧水があるよ。行ってみよう」
彼女は僕の手を引き、小走りで駆けていく。
緊張と熱で反応が遅れた僕は、彼女に引かれるままに付いていく。
「看板が立ってる。この水飲めるみたい」
彼女がパッと明るい笑顔をこちらに向ける。
「あの、手が…」
言うべきではなかったのかもしれないが、彼女のしっとりとした手の感触に、僕が耐えられなかった。
「や、やっぱり暑くなってきたみたいだから、ほら水飲もう。わ、冷たい」
僕の言ったことが聞こえなかったのか、わざとなのか、手はしっかりと繋いだままだ。
気にしていない様子で水を片手に浴びせている彼女だが、よく見ると頬が赤い。
これはもしかしたら、勘違いではなかったのかもしれない。
今度は僕からぎゅっと手を握り直す。
この日の出来事が、ほろ苦い思い出になるのか、甘酸っぱい思い出の始まりになるのかは、今の僕にはまだわからない。
でも、少しは期待しても良いと思う。
「あの…」
頬を赤らめ、片手に溜めた清水を眺める彼女に、僕は一世一代の告白をする。
この日のことを僕は一生忘れない。
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