お茶会

1/17
前へ
/17ページ
次へ

お茶会

 お茶会を目前に控えた魔術師オルランドの朝は早い。  にわとりの鳴く声を目覚ましに、太陽と共にベッドから起き上がる。寝ぼけ眼でにわとりに突っつかれながら、生みたての無精卵を回収する。あくびをしながら、おととい下の町で買ってきたベーコンを薄く切り、さっき回収した卵と共に焼く。今日は昨日の残りの汁物は無い。昨日はオリヴィエのところでご馳走になった。ベーコンと共に買った丸パンに崩れた目玉焼きとカリカリに焼いたベーコンを挟み、バターの代わりにレモン汁をかける。マジックハンドでフライパンとフライ返しとナイフを洗いながら、新聞代わりに下の町の様子を見る。彼は砂糖とスパイス、新鮮な果物を探しているようだった。女の子を作るわけではない。朝食を昨日の夜井戸で汲んだ水で流し込むと、玄関に立てかけてあるほうきを持って外に出た。そして看板の文字を『外出中』に変えると、ほうきに乗って下の町に向かった。  魔術師オルランドは、便利屋を生業にしている。普段は下の町の人々の怪我や病気の治りを早くするため治療したり、井戸のつまりを直したり火種を分けたり、その他もいろいろなことをして生計を立てていた。そこそこの収入で家畜もいるので、生きていくには困らない。  彼が何をそんなに慌てているのかと言うと、年に二度、サバトとは別にあるお茶会のためである。彼の親しくしている魔術師の一人に、メルランという者がいる。この男は大変な甘党で、王に何をしたかは忘れたが黄金を貰ったときより、いつだったか王妃の髪に宝石や花を編みこんだときの礼にもらったお菓子の方がうれしかったと嬉々として話していた。メルランは一国の王に仕えていて、他のたいていの魔術師より重く用いられているくせに、そういうところが憎たらしい。オルランドはかの男に、前回のお茶会のときに借りがあった。そのときオルランドはメレンゲにくるみやアーモンドを入れて焼いたものを持っていった。お茶会にはいくつか決まりがあって、そのときの彼はお茶菓子を持っていくことになっていた。お茶会の帰りのとき、彼はメルランにこう言われた。 「次はマカロンをたのむ」  とんだ男である。メルランが何を思ったかは知らないが、オルランドが彼に何かを聞く前に、メルランはトンズラしてしまった。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加