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「あぁ、君。もしかしてこの人と知り合いだった? だったら君も『アンノウン』に入っているのかな?」
「アン、ノウン……?」
何を言っているのか分からない。それより、彼が『女性連続殺害事件』の犯人なのか確かめなければいけない。
「貴方は、何者なんですか?」
尋ねてみると、彼は口角を上げた。
「至って平凡な殺人鬼ですけども?」
不気味な笑みを向けられ、ゾワリと背筋が冷たくなる。逃げたい気持ちに駆られるが、ここで逃げてしまえば見失うことになる。それに、まだ確信には至ってない。確実な証拠を掴まなければ。
「はい、じゃあ次は君の番ね。君は何者?」
彼は私と同じ目線になるようにしゃがむ。綺麗な純血の瞳がこちらを見ている。何故か、視線を外してはいけない気がした。
「一般の魔術師、です」
「一般、ねぇ」
『一般』を強調する。すると、彼は私の顔に手を伸ばし、頬に触れる。手を払おうとしたが、彼が片方の手に持っていたナイフを私の首へ向けた。
「大丈夫。確認したいことがあるだけだから、」
はっきりとした低い声。向けられたナイフを見ると、目の前で殺されてしまった女性の血痕が付着している。口の中に溜まっていた唾をゴクリと飲み込んだ。彼は私の頬をゆっくりと撫でていく。彼の手からは温もりが感じられた。
「……うん。本当に一般の魔術師だ。良かった、君を殺さずに済みそうだ」
彼は私の頬から手を離し、ナイフを下げると立ち上がる。
「一体何を確かめたんですか」
質問を投げかけると、すんなりと答えてくれた。
「本当にアンノウンに入っているのかいないのかを、だよ」
先程から彼の口から漏れる『アンノウン』という言葉。何のことを指しているのだろうか。疑問に思っていると、私の前に掌が差し出された。これは、捕まって立ち上がれという意味なのだろうか。戸惑っていると彼に手首を掴まれ、無理やり立たされた挙げ句、胸を借りる状態になってしまう。いや、これは思い切り引っ張られたから仕方ない。すぐに離れると、「もっと寄りかかっても良かったのに」と笑顔を向けてくる。それを無視して、話を進める。
「あの、どうして立たせたんですか?」
青年は、笑顔から一変、表情を無にする。
「さっきの死体を見て欲しいからだよ」
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