Ⅰ 

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「いただきます」 テレビも付けずに、一人で両手を合わせて声を上げた。目の前には、少し焦げ目の付いた食パンが置かれている。おかずはない。元々小食なので、これでお昼まで持ってしまう。 料理も昔と比べて随分と上達していた方だ。以前では、目玉焼きでさえ作ることが出来なかった。というか、卵を割ることが難しい。今も苦手である。 寂しく朝食を終え、ドレッサーの前へと座り、ミルクティー色の髪をハーフアップにまとめる。黒のリボンを髪留め代わりとして付け、母親の形見のチョーカーを首に付ける。 時計を見ると、針は8時を指していた。学校までは歩いて15分の道のりなので、そろそろ家を出なければならない。と、その前に。毎日欠かせないことを、まだしていなかった。駆け足でリビングへ向かい、置かれている祭壇に手を合わせる。祭壇には1枚の写真が置いてある。写真には両親が睦まじく笑っている。 「行ってきます。父さま、母さま」 家の門に鍵を付ける。案の定、外は寒い。首に巻いているマフラーに口元を思わず埋める。積もっている雪を踏むと、モフと音を立てる。学校へ着く前に靴の中が濡れてしまいそうだなんて思いながら目線を上げると、家の壁に寄りかかっている金髪にエメラルド色の瞳をした青年が私の瞳に入る。私に気付くと、フッと余裕ある笑みを浮かべる。 「やぁ、桐生。おはよう」 そんな彼に私は、無愛想に返す。 「毎朝、待ち伏せされても困るのだけど。佐久間君」 佐久間(さくま)桜士(おうじ)。彼は私のクラスメイトだ。更には、佐久間財閥の御曹司である。将来は次期当主を受け継ぐことになっていて、敷かれたルートを進めば薔薇色人生が待っている勝ち組、というやつだ。 「良いじゃないか。それとも、魔術師の僕と絡むのは、嫌かな? 同じ仲間なのに?」 そう。彼は私と同じ魔術師である。しかも先代から伝わる魔術師一家だ。そもそも、魔術師と一般人の違いは、体質だ。魔術師の家系に生まれたから、必ずしも魔術師になるわけではない。魔力を使うということは、それなりの体力も持ち合わせなければいけない。だから、滅多なことで魔術師だとバレることはない。 私は佐久間君に返事をせず、歩き始めた。愛想がないと思われても良い。彼とは極力関わりたくない。私の後を追いかけるように、佐久間君は足を動かした。ちゃっかりと彼は私の隣へ並ぶ。更には、手を絡めてきた。その行為が気持ち悪くて、すぐさま私は手を払った。 「やめて」 あぁ、これだから関わりたくないのだ。 「冗談だよ。桐生には冗談も通じないのかい?」
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