Ⅰ 

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「誰だって、好きでもない相手と手を握りたいとは思わないでしょう」 つい本音を口にすると、佐久間君の顔から笑顔が消える。 「桐生、いずれ君は僕を頼りにする。絶対だ。その時になって、後悔しても遅いんだぞ? 僕は桐生なら恋人にしても良いと思っているんだ。それに僕と付き合えば、市民に襲われることはない。君の両親のように殺されずに済む。だから、な?」 何度も言われてきている台詞。上から目線の台詞。いい加減聞き飽きた。 「悪いけど、私は誰とも付き合うつもりはないの。初めて佐久間君が私に告白してきた時に言ったでしょう?」 佐久間君に向けて冷たい笑みを浮かべる。目の前にいる彼は、唇を噛みしめていた。その姿を見て、私は更に突き飛ばす。 「それと、平穏な魔術師生活が送れること、それはとても魅力的だと思うわ。でもね、私は平穏じゃなくても良いの。今は平穏よりも名誉を取り戻すことが最優先だもの。それに、佐久間君の彼女になったら、余計に面倒事が起こりそうで忙しくなりそう。分かったら明日の朝から来ないで。迷惑なの。それじゃあ」 本当は両親のことを言われて酷く腸が煮え返りそうだったけど、飲み込んだ。こういう人には何を言っても響かないだろう。 唇を噛みしめていた佐久間君は、今度は口を開けて呆然としていた。そんな彼を置いて、私は学校を目指した。数秒後には『後悔するなよ!』との大声が耳に入ってきたのだった。 私が通う、(せい)香月(こうつき)高校は、新技術を取り入れた進学校である。校舎はガラス張りで、教室の中をいつでも誰でも見られるようにしてある。黒板は電子黒板になっており、生徒が使う教科書は、タブレットを使用している。屋上は常に開放されていて、出入り自由である。他の高校とは少し違い、近未来を味合わせるような学校である。 学校では私が魔術師ということを隠して生活している。打ち明けてしまえば、皆、私を警戒して逃げていくことが目に見えているから。一応、佐久間君も自身が魔術師だということは隠している。現在は、魔術師が暮らし難い環境だ。打ち明けることは、デメリットでしかない。 「藍ちゃん、次移動教室だから行こう」 「うん」 友人の桃花に声を掛けられて席を立つ。 いざ進もうとした瞬間、ぐにゃりと世界が歪む感覚を覚える。持っていた教科書と筆箱が地面へと落ちる。ゆらゆらと視界が定まらない。思わずしゃがみ込み、頭を抱える。あぁ、この痛みは。
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