5人が本棚に入れています
本棚に追加
時刻は午前2時前後。私は、小さなリュックを背負い、手に術書を持って夜道を歩いていた。幸いなことに、警察は徘徊していないようなので一安心している。
辺りは夜中ということもあって、とても静かで薄気味悪い。現在住んでいる私の街は、都心から離れているため、いつも静かなのだが夜中はそれ以上に静かだ。なんだか、別世界に来てしまったように思えてしまう。それに、現在は止んでいるが、朝に積もった雪が歩く度、モフモフと音を立ててしまうため、犯人に見つからないか心配だ。なんて、考えていると。か細い悲鳴が聞こえてきた。
女性の声だ……!
私は声がした方へと向かった。ザクザクと周りが静かなので足音が響く。しばらく走っていると、小道の奥から人影が見えた。息を切らしながら小道を右へ曲がると、そこには仰向けで倒れている女性が犯人に乗りかかられていた。犯人はナイフを振り上げていた。こちらをチラリと見ただけで、犯人は再び女性へと視線を戻す。
外見からして男性だろうか。細身だが、女性にしては体格が良すぎる。振り上げているナイフは、今までの血を浴びたせいか、錆びている。真冬だというのにワインレッドのパーカーにフード、それからスキニーにスニーカー。両手には指紋防止のためかゴム製の手袋がはめられている。彼の真後ろにある満月か
ら出ている月光のせいで表情が読み取れない。
「た、助け……っ!」
女性が私に助けを求める。私は持っていた術書を広げて、呪文を唱えようとしたその時だった。
男性は躊躇いもなく、女性の心臓にナイフを突き刺した。女性の悲鳴が辺りを包もうとした瞬間、男性は女性の口を右手で塞いだ。左手はジタバタと暴れる女性の身体を押さえつけていた。女性の心臓にナイフが刺さったままだった。
早くナイフを抜かないと死んでしまう。そう分かっていた。けれど、私の足は動かなかった。気が付けば、口も足が震えていた。寒いからではない、目の前で起きていることが怖いから。3年前、目の前で亡くなった両親を思い出すかのように、足は竦み、口もガタガタと歯と歯が当たってうるさかった。
最初のコメントを投稿しよう!