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それは暑い、真夏の日のことだった。
今年は例年よりも暑く、つい先日には部活をやっていた生徒が数名倒れたらしい。 不謹慎ではあるが、それを教訓にしてしっかりと細心の注意を払えと終業式の日に先生は言っていた。
そうして迎える夏休みだが、俺には少しばかり縁のない話であった。
今現在高校二年の俺。
本来なら大多数の人間は何かしらの部活に勤しんでいるだろうが、俺は今年の春休みに部活動を辞めた。
俺は野球部に所属していた。 と言っても大した強豪でもない。 夏休みに入る前に第一回戦があったのだが、悔しくも敗北してしまった。
人数もとても少なく、新体制の一、二年の部員総数は二十をギリギリ超えた程度だ。
それでもその野球部で俺はキャプテン候補とまで言われていた。 別に才能があったとかそういうわけではない。 ただ人一倍に動いて声を出していただけの凡人だ。
確かに少人数の部活にとっては、そういう人材は必要だったのかもしれない。 キャプテンとして引っ張るべきなのかもしれない。
けれど、凡人にとってキャプテンという座は、地位は、荷が重すぎた。
新入部員が入ってくる直前の春休み、同級生の見えない期待と重圧に俺は次第に押し潰され、もう耐えられないと感じて辞めることを決意した。
どうせ俺一人が消えても何ともないだろうと思っていた。 俺の価値はただのバカ真面目で、キャプテンになったら部員を引っ張っていける、というそれだけのものだと決めつけていた。
しかし。
『夏樹は部活にいないといけない存在なんだっ! 実力とかそんなの関係なく、この野球部に必要な奴なんだよ……!』
今年、三年が引退したらほぼ確定でエースになる同級生の仲間が。
涙を流していた。
その姿を目の当たりにした時、俺は自分が今何をしているのか分からなくなった。
体は気怠くて、いつも以上に重力を感じる。
何か言葉をかけようにも声が出ない。
そして何もかも投げ出すかのように俺は、野球部から逃げた。
…………。
………。
……。
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