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本屋に着いた。
自転車を停めて、財布を手に店内へ。
店内では冷房が効いており、少しすると汗は引いた。
「……」
いつもなら漫画の方に直行するのだが、今回はなぜか小説の方に足が向いた。
「いろいろあるな……」
さまざまな題名が立ち並ぶ本棚。
その中で気になったものを適当に手に取り、中身を拝借する。
「うっわ……文字ばっか」
小説だから当然なのだが、びっしりと並ぶ文字に思わず目眩を起こしそうになる。
パタンと本を閉じ、元の位置に戻した。
「……漫画行こ」
静かにそう呟き、漫画の方へと足を運ぼうとした、その時だった。
「……あれ? 夏樹?」
「ん?」
背後から、自分の名前が聞こえた。 自然に俺はその声に振り返る。
「やっぱり! 夏樹じゃん! ひっさしぶり~!」
「ーーっ!? お、おう」
一人の女子が、陽気な笑みを浮かべていた。
「元気してたっ!? あ、私のこと覚えてる!?」
「お、覚えてるよ……小林」
忘れるわけがなかった。
小林 希。 小、中学校が同じだった女子だ。 高校は別々になってしまったが。
少し低めの身長に短い黒髪。 にこにこと明るい表情に、吸い込まれるような黒い瞳。
何もかも、覚えている。
「だって……」
だって俺の。
初恋の人だったから。
「……ん? だって、何?」
「あ、あぁ……いや、何でもない」
「そう? ならいいけど!」
思わず余計なことを口走りそうになってしまった。
動揺する気持ちを抑えるため、少し深呼吸をする。
「懐かしいなぁ……! って言っても、一年くらいかっ! あははっ」
「そ、そうだな……」
しかし、何度深呼吸しても心は落ち着かなかった。
あぁ……この感覚。 本当にいつ以来だっただろうか。
呼吸がしづらくて、胸はキュッと締め付けられ、高鳴りを忘れることがない。
手足は今にも震えそうで、相手は何も知らずに目を見て話しているのに、こっちは相手の顔をまともに直視できなくて目をそらす。
しかも、小林は笑顔が絶えなかった。
眩しくて、輝いていて。 見ているだけで頬が緩みそうになってしまう。
本当に……好きだった。
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