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そこで、俺と小林は少し会話を止めた。 正確には小林がどこか遠い目をしていたから、俺はそれをしばらく見守っていた。
「……ねえ」
そのまま数秒見守っていると、小林は閉ざした口をもう一度開き。
「野球……辞めちゃったの?」
「ーーっ」
一番してほしくなかった話題を、出してきた。
心臓を掴まれたかのような気分だった。
さっきまでしていた胸のドキドキとは違う、嫌な感じのドキドキと痛み。
苦しくても嫌には思わなかった今までの感覚が一気に反転する。
今にも走って逃げたいのに、足が石のように固まって動かない。
それは単純に嫌なのか、それとも……。
何かを、教えてくれる気がしているのか。
「どうして」
何に対しての「どうして」かは分からない。 けれど、固く閉ざした口から出た言葉はそれだった。
「髪、伸びてるから。 高校入ってから一度見かけたことあったけど、その時は坊主だったし……」
小林は俺の言葉を「なぜ分かったのか」という意味で解釈したらしい。
確かにずっと坊主姿だった奴の髪が伸びていたら気づくだろう。
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