うしろの正面だ、誰……?

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うしろの正面だ、誰……?

 モデルのようにすらっとした長身に腰まで伸ばした栗色の髪の毛。切れ長の瞳、通った鼻筋、薄い唇。ああなんて美しいんだろう。毎朝通学で使う駅で彼女を見かけるようになったのはつい最近のことだ。僕よりも身長が高いようだから170㎝は超えている。人よりも頭一つとびぬけている上にあの美貌。付き合いたいなんておこがましいことは思わない、ただただ一目見られればその日は一日ハッピーだった。だったんだけどね。  「見間違い……じゃないんだよなぁ……」  人に聞こえるか聞こえないかわからない程度の声で僕はつぶやいた。  遡ること数日前。いくら彼女が美しいからといって凝視しすぎたら悪いと思い二秒見たら目線をそらすというマイルールを実行中、僕はそれに気づいた。見覚えのあるおっさんはグレーのスーツに銀縁の眼鏡をかけている。頬はこけており、さびしげなバーコード頭は風が吹いたら飛んで行ってしまいそうだ。なぜ僕がそのおっさんに見覚えがあるのか。そう、彼女の後ろにはいつも同じおっさんが立っているのだ。  まず最初に考えたのはおっさんは彼女の父親なのではないか?ということ。通勤時間が娘と同じ父親が毎朝親子揃って駅に向かう……だが二人が会話するところを一度も見ていない時点でその考えは否定した。流石に一言も喋らないということはないだろう。  次に考えたのはおっさんは彼女のストーカーなのではないか?ということ。有り得る。これは大いに有り得るぞ。なぜなら彼女はとても美しいから。最近駅で見かけるようになったのも、このあたりに引っ越してきたからなのではないだろうか?まさか、引っ越してきたのもストーカーから逃げるため……!?それにも関わらずおっさんは未だにしつこく彼女を追い回しているのではないだろうか!?おまわりさんこちらです!しかしその考えも一瞬で打ち砕かれることになる。  彼女の後ろに見えるおっさんには足がなかったのだ。
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