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足がないというよりおっさんには下半身がなかった。もっと正確に言えば上半身しか見えない状態でついでに言うとちょっと透けている。なんで今まで気が付かなかったんだろう。自分がいかに彼女しか見えてなかったかを痛感した。あれは間違いなく人間ではない。綺麗な彼女の後ろにたたずむちょっと透けたバーコード頭のおっさん。だけどそれも仕方ないと思う。僕は生まれてこの方幽霊なんて見たことなかったし霊感なんて少しもないと思って生きてきたのだから。
それはそれとして、僕はこの事実をどう受け止めるべきなのだろう。彼女は自分の後ろにおっさんが張り付いていることを知っているのだろうか?今まで彼女が背後を気にする素振りを見せたことはなかった。僕が見てきた限りにおいてはの話だけれど。彼女はおっさんの霊に憑りつかれているのだろうか。そんなことを考えながらおっさんをじっと見つめる。あまり悪いものには見えないけれど……どことなく悲しみをたたえた目をしたおっさん……。有害にせよ無害にせよ、僕だったら自分に何かが憑りついているのを知らないままなのは嫌だと思う。世の中には知らない方がいいこともあるけれど、少なくともバーコード頭のおっさんが常に自分の背後にいるという事態は早急に解決した方がいい気がする。
3番線のホームで電車を待つ彼女に向かって僕は声をかけた。
「あの!すみません!」
声を発した直後、僕を猛烈な後悔が襲った。一体彼女になんて伝えたらいいのだろうか。
「突然ですが、あなたの背後におっさんの霊が見えます」
これじゃただの変な人だ。オカルト好きでもなければきっと相手にされないだろう。
「最近身内に不幸があったりしましたか?」
いきなり何を言い出すんだそもそもお前は誰なんだ。
「なんだか肩が重いと感じたりしませんか?」
肩を揉む動作つけたら完璧に痴漢だ。下手したらその場で警察を呼ばれかねない。
瞬時に脳内を様々な言葉が駆け巡るがこれといった決定打のないまま、なんとか僕は言葉を絞り出した。
「あの……もしかしたら僕の気のせいかもしれないんですけど、あなたの後ろに何か見える……ような……?」
こんなにも永遠かのように思われる数秒間を僕は知らない。
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