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「はー。いつの間にこんな……ヤバくねぇ?」
研いだ包丁の刃に映る、咥え煙草の横の深くなったほうれい線、たるんだアゴ、首のしわ……
「心音様。由比様からの連絡はありませぬか?」
井戸端で包丁を研いでいた――賄い隊女頭、水城心音はため息と一緒に煙を吐いて声の方へ顔を向けた。
小柄で華奢な二十歳そこそこの鈴菜が、自分の身長の半分はありそうな鉄砲を肩に担いで立っていた。
額に鉢巻、着物に袴を履いている。
「……鈴菜。あたし、老けたよね?食べてないのに、腹回りヤバいしぃ」
立ち上がって腰を伸ばす心音を、鈴菜は見上げた。
真っ赤な流しの着物に、前で結んだ花魁の様な黒い帯、はだけた裾からは膝までの編み上げの白い厚底ぶーつ。
金髪に近い染めた頭は、鈴菜より頭一個は上にある。
「いえ。心音様は初老を過ぎたにしては、お若く見えます」
「やめて!初老って、超ヤバいんですけど……」
咥えていた煙草を器用に指で揉み消した。
「あ、由比だっけ?昨日連絡があったらしいよ。星の名を持つ武士(もののふ)見つかったって」
鈴菜は顔を紅葉させて
「誠にございますか!流石は隠密筆頭由比様であらせられます!これで星家も安泰でございますね!皆に知らせて参りまする!」
一礼して駆けていく華奢な背中を見送りながら
「……参りまするー!って、時代劇か?最近の若い子言葉は……わー、最近の若い子はって思考、まじばばあじゃん……」
突然大砲の音がして、厨の扉がガタガタ震えた。
「――――旭の奴。また砲撃訓練をうちの山に向かってやりやがって!あそこは、筍に山菜、山葵田、松茸だって生えてくるのに!!ぶっ殺してやる!!」
心音は厨の隣の馬屋から愛馬白兎馬に跨がって、山へ続く獣道を駆けた。
背中に担いだ鉄砲を器用に胸の前で構えた。
着物の裾が割れて、白いぶーつの肉付きの良い艶っぽい足が太股まで覗いた。
小川の流れる山葵田の前で馬を止めた。
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