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「田舎の景色って退屈だな」
窓を見ながら徹はそう言ったけれど、それでも、他になにもやることがないからなのか、退屈な景色を眺めるのも悪くないと思ったのかは分からないけれど、窓の外を眺めて続けている。遠くに山があって、一面に田畑が広がっていた。そして、ぽつんぽつんと民家が立ち並んでいる。
「あの夕陽が丘って街はね、山の中にあったよ。山の中なのに、綺麗な外国みたいな不思議な街だった」
「へえ、それは楽しみだな。俺は行ってないんだろ? 小さい頃」
徹はすっかり旅行気分のように見えて、私は内心少し呆れていた。
「あの時、お姉ちゃんと私だけがはぐれたんだと思う。夜まで戻れなかったんだけど、徹は覚えていないの? 私達がいなくなって、お父さんもお母さんも心配していたんじゃないかな?」
少し考えるような顔をして、徹は窓から目を離して私を見た。
「覚えてねえな。そんな事があったってこと自体、全く覚えてない。大体、あの頃の俺がおまえらにくっついて行かないって無かったと思うけどな」
徹にそう言われると、段々と自信が無くなってきた。姉とふたりだけで行ったというのが、記憶違いだったのだろうか。
「じゃあ、これは覚えている?」
私は姉から来た絵葉書のつり橋の写真を見せた。
「いや。俺はその街には行ってないと思う」
「じゃあ、やっぱりお姉ちゃんとふたりで行ったんだね。お父さんもお母さんもこのつり橋は知らなかったの。私はこのつり橋をお姉ちゃんと一緒に渡ったのを覚えている」
よく覚えていないけれど、つり橋の向こうに用事があったような気がした。あの街に行こうと決めた時から、私は記憶にあるこのつり橋を目指して姉を探そうと思っていた。
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