夢から醒めない夢

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*  自分に『前』があることを思い出したのは、最近だ。  前の世界から飛ぶ時に、俺をそそのかした、先輩と名乗る悪魔は囁いた。  「代償は影響を受けるものすべてだ」  お前を飛ばすために、村ひとつ潰れるくらいの歪みができる。なに、気に病むことじゃない。初めからなかったことになるだけだ。辻褄を合わせるために何人か消されたり、進路や関係性や人生が変わる人間がいるが、それも同じことだ。  「それでもいいか?」  もともと俺のものじゃないものが、俺のせいでどうにかなるのを俺に了解をとるのはどうなんだ。それは俺にとっての代償と言えるのか。  訝しげな俺に、悪魔は笑った。  代償とは、他人に与えた損害をつぐなうことだ。俺がお前を飛ばすために手配してやったことで生じた損害を、お前がつぐなうんだ。この場合、つぐないは俺が手配してやった世界を維持し続けることだ。潰れた村は、消されたり人生を変えられた人間は、何かのきっかけを狙って復活しようとする。そいつらがあるべきと思う形に戻ろうとする。それをお前が阻止していかないと、簡単に世界は壊れる。維持するのは楽じゃないぞ。それこそ、命を……魂を削るように消耗する。  その時は全然ピンと来なかったけれど、彼と恋人同士の日々を送るようになって、その歪みは時々姿を現すようになった。
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