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主役の未成年だけが唯一シラフの稀有な飲み会だった。
一時間も経つと各々酒の許容量は限界近くまで達し、あがる話題のほとんどが最初の趣旨からは違うものに移行している。
水島は最後まで隣で愚痴に付き合ってくれていた中野がトイレに立ったのに気がつかなかった。
中野が消えた隙に、ドクターの一人と思われる男が、泣きはらして机に頬を付けている水島の肩に手を置いた。それはもしかしたらドクターではなくて、OBだったのかもしれない。
「キョーチ、そんなに気を落とすなよ」
こんな先輩いたかな? と水島は思った。
その人物は、目を細めて訝しがる顔に苦笑した。
「一度会ったことがある。でもその時はお前は俺に気づかなかったけどな」
その、黒い塊のような先輩は水島の隣に座って、いやに親しげに話しかけてくる。
「いいことを教えてやるよ」
肩に置かれた手は、子供を寝かせる親のようにそこをトントンと叩く。その手を振り払う気力は、水島には残っていなかった。
「俺は多元宇宙を研究してる」
思わずその第一声だけで笑ってしまう。
決して馬鹿にしているわけではなくて、今日既に同じ切り出しかたで、何度先輩方の研究領分の知識を披露されたか知れないからだった。だから、まったく同じ切り返しで答える。
「申し訳ないんですけど、いま、研究の話なんて……」
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