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夢から醒めない夢
研究室の暑気払いは、例年とは打って変わって華々しいものとなった。
休学中の修士課程の一年生が金メダリストとなり、普段来ない関係企業や団体の人間が有名人見たさに参加を希望して人数が増えたためだった。普段は居酒屋の個室で開催されていた会は、ホテルの宴会場を貸しきっての催しとなり、当の金メダリストが遅れて会場にやってきてからは交流会のような様相を見せてお開きとなった。
その、件の金メダリストこそが水島恭一(みずしまきょういち)の恋敵だった。
「何で俺は、同い年で幼馴染みのアスリートとして生まれてこなかったんですかね」
ホテルの会食から一転して、親しみやすいチェーンの居酒屋で水島はがっくり項垂れていた。
「俺が知るかよ……」
水島の先輩である四年の中野は一次会では遠慮していた煙草に火をつけて、ゆっくりと煙を吐き出す。
オレンジジュースでよくこれだけ管を巻けるな……。
中野は内心水島の荒みように少し引きつつ、かわいい後輩を憐れんでいた。まだ学部一年でありながら熱心に研究室に通い、どんな雑用も嫌な顔ひとつせずにこなして、癖のある研究室メンバーのほぼ全員と親しく接することができる人懐っこい水島を、中野はかわいがっていた。
一次会の会場から水島を一人連れ出したのは中野だった。形ばかりの二次会に行くよりも、内輪で毒を吐かせてやりたいという親心のようなもので、実際水島は会場で出しきれなかった毒素を振り撒き始めた。
「カノ先輩がとめてくれて良かったです……。俺、あの場にあれ以上居たら嫉妬で頭がおかしくなりそうで……」
勝手に付けた愛称で中野のことを呼び、潤んだ瞳でそんなことを言われては、なんとか元気付けてやりたいと思わずにはいられない。
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