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俺は電話を切り、足元に落ちていた果物ナイフを拾い上げた。カバーを付けると、それをそのままポケットの奥に押し込んだ。
俺自身、若干の血の汚れはあるものの黒いTシャツを着ていたことが幸いして目立たない。
決してポケットから手を出さないように、俺は用心深く人混みの中に紛れた。
――どうしよう、どうしよう、どうしよう……!
血に濡れた自分の手を見るのが怖い。さっきの奴が通報しないとも限らないし、上手く連続殺人に見せかけることができるとは思わない。
明日になれば、きっと普段の生活に戻れる。そうでなくては困る。
俺はアイツのことを殺しちゃいないし、フラれるはずもない。
今日が終わってしまえば、息をしない彼女も、カメラを持った青年も全てが嘘になる。
そうに決まっているじゃないか……!
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