ナイフを手にした青年

7/7
32人が本棚に入れています
本棚に追加
/54ページ
俺は電話を切り、足元に落ちていた果物ナイフを拾い上げた。カバーを付けると、それをそのままポケットの奥に押し込んだ。 俺自身、若干の血の汚れはあるものの黒いTシャツを着ていたことが幸いして目立たない。 決してポケットから手を出さないように、俺は用心深く人混みの中に紛れた。 ――どうしよう、どうしよう、どうしよう……! 血に濡れた自分の手を見るのが怖い。さっきの奴が通報しないとも限らないし、上手く連続殺人に見せかけることができるとは思わない。 明日になれば、きっと普段の生活に戻れる。そうでなくては困る。 俺はアイツのことを殺しちゃいないし、フラれるはずもない。 今日が終わってしまえば、息をしない彼女も、カメラを持った青年も全てが嘘になる。 そうに決まっているじゃないか……!
/54ページ

最初のコメントを投稿しよう!