32人が本棚に入れています
本棚に追加
/54ページ
そういえば、俺はこんな所で一体何をしていたのだろうか。いつも通りに過ごしていれば、こんな路地裏に来たりしない。
さて、先程の青年は何を楽しそうに記録していたのだろうか。……思い出せない。
――私、あなたには裏切られたくなかった。
彼女の声。これ以上は、思い出したくない。
スマートフォンを手に取り、彼女に電話をかけた。画面を見なくても連絡先が分かる。それくらい毎日電話をした。彼女の声を聞きたい。俺が思い出したあの言葉は、きっと夢の中の話だ。そうに、違いないんだ。
電車が走る音がして、ここは駅が近いことを知る。その時、車輪の音に混じってかすかに覚えのある着信音を聞いた。
それはすぐ傍で、すぐ後ろで俺を呼んでいた。
頭に鳴り響く着信音。
突きつけられた俺の罪。
最初のコメントを投稿しよう!